坂東 三津五郎 (10代目) バンドウ ミツゴロウ 

本名
守田寿
俳名・舞踊名
舞踊名も十代目坂東三津五郎
屋号
大和屋
定紋
三ツ大、花かつみ
生没年月日
昭和31(1956)年01月23日〜平成27(2015)年02月21日
出身
東京都
所属
伝統歌舞伎保存会会員

プロフィール

面長で切れ長の一重瞼、やせぎすでスッキリした立ち姿。思い描く江戸っ子の正しい容姿を具現していた。少し小柄なのも好もしかった。うどの大木は、どうも江戸っ子にはなりにくい。
曽祖父・七代目以来、坂東家に70数年ぶりに誕生した男子ということで大和屋の慶びは最大級。誕生の翌年『傀儡師(かいらいし)』に曽祖父に抱かれた唐子(からこ)で出演し、1歳の初お目見得をはたした。大切に厳しく養育されたのであろう、折り目正しい嫌味のない芸を身につけた。その上、天性の華も持ちあわせていた。
そんな三津五郎には世話物が特に似合った。砥の粉まじりの化粧に短か目の着流し、『梅雨小袖昔八丈』髪結新三の新三だ。道具箱を下げた出のいなせなこと。元結の片襷がぴたりとはまる。櫛で髪を梳く仕種、油を指に取り鬢(びん)にチャチャッと付ける手際。二代目尾上松緑直伝の髪結の生態をみせた。世話物ついでに挙げれば『新皿屋舗月雨暈』魚屋宗五郎では、妹を無惨に殺された宗五郎が断っていた酒を飲みほすにつれ、理不尽な殿様に怒りをつのらせる件に、律儀な男のやるせなさをしっかり描出してみせた。また『雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)』三千歳直侍ではガラリと変わった御家人くずれの片岡直次郎の苦み走った男っぷりが光った。全てに“様子のいい”芝居のできる俳優であった。
ことほど左様に様子のいい世話物だけではない、時代物もまた素敵だった。柄からいえば時代物の大きさは不得手かと思うと、それは全く違う。役者の大きさは肉体的条件に比例するわけではないことがはっきりわかる。『ひらかな盛衰記』逆櫓(さかろ)の樋口次郎、『絵本太功記』武智光秀の大きさ、『熊谷陣屋』熊谷直実の剛毅さと情愛。『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』仁木弾正の眼光と鷺の見得の形の良さ、『祇園祭礼信仰記』金閣寺の松永大膳の古怪さ、『倭仮名在原系図』蘭平物狂の奴蘭平のタテの見事さ、『傾城反魂香』「土佐将監閑居の場」の又平の一途さ、枚挙にいとまがない。
舞踊は坂東流の家元でもあり言わずもがなの名手。襲名の出し物だった『六歌仙容彩(ろっかせんすがたのいろどり)』では「喜撰」はもとより僧正遍照、文屋康秀、在原業平、大伴黒主と踊りぬく実力をそなえていた。曽祖父・七代目三津五郎は踊りの神様といわれ、もう1人の神様、六代目尾上菊五郎とコンビの『三社祭』は技量伯仲の面白さで語りぐさになっているが、十代目三津五郎と盟友十八代目中村勘三郎のコンビも曽祖父、祖父に負けないだろうと思わせる舞台だった。『棒しばり』もまたしかり。
また七代目が得意とし家の芸のようになっている『流星』では雷の亭主とその女房、子供、婆の4人の雷役を1人で軽妙に踊り分けた。『どんつく』『玉屋』『粟餅』『山帰り』のような風俗舞踊も柄にあった。大曲では『京鹿子娘道成寺』の花子はまだ莟だったが、そのパロディといわれる『奴道成寺』は三ツ面を鮮やかに使いわけ踊りぬいた。『馬盗人』『芋掘長者』などの民話調で楽しい舞踊の復活にも才をみせた。
新歌舞伎にも『番町皿屋敷』の青山播磨、『将軍江戸を去る』の徳川慶喜、山岡鉄太郎など、爽やかで明瞭なセリフが生きた秀作は多い。新作では『道元の月』など脚本の読解力にも優れた面が窺えた。
歌舞伎以外では蜷川幸雄演出の『近松心中物語』の忠兵衛の好演が光った。
八十助から三津五郎を襲いだのは2001年1・2月の歌舞伎座で、21世紀最初の襲名として華々しい門出を飾った。襲名狂言の第1は『六歌仙容彩』の喜撰法師、結構な舞台だった。加えての『寿曽我対面』の曽我五郎。荒事の寸法骨格を踏まえた力の漲る演技。なかでも工藤祐経の盃を受ける、左手を三宝にかけ、盃を持った右手をすっと斜め後方に伸ばしてきまった形の良さ、気組みの強さ、むきみ隈が双肌ぬぎの襦袢の赤に映えて清々しく江戸の春を寿いだ。
「僕の役者としての人生はこれから二十年が勝負だと思います」と2008年発行の著書『歌舞伎の愉しみ』で述べているが、それからわずか7年後、60歳を目前に盟友勘三郎のもとへ旅立ってしまった。実に残念でならない。

 【小宮暁子】

経歴

芸歴

昭和31年1月23日生まれ。九代目坂東三津五郎の長男。昭和32年3月明治座『傀儡師(かいらいし)』の唐子(からこ)で初お目見得。昭和37年9月歌舞伎座『黎明(れいめい)鞍馬山』の牛若丸で五代目坂東八十助を襲名し初舞台。平成13年1・2月歌舞伎座『喜撰』の喜撰法師、『対面』の五郎ほかで十代目坂東三津五郎を襲名。

受賞

昭和62年度芸術選奨新人賞。同年名古屋演劇ペンクラブ年間賞。平成4年松尾芸能賞優秀賞。同年都民文化栄誉賞。平成9年眞山青果賞大賞。平成18年日本芸術院賞。平成19年第15回橋田賞。平成21年松尾芸能賞大賞。同年紫綬褒章。平成24年第54回毎日芸術賞。平成26年第21回読売演劇大賞最優秀男優賞。ほか受賞多数。没後旭日小綬章を追贈される。

著書・参考資料

昭和62年写真集『坂東八十助 1980鏡獅子-1987車引』(三麗社、北口眞理子写真)、平成12年写真集『十代目坂東三津五郎』(日本放送出版協会)、平成13年『あばれ熨斗』(三月書房)、平成20年『坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ』(岩波書店、長谷部浩編)、平成17年『粋にいなせに三津五郎』(ぴあ)、平成22年『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』(岩波書店、長谷部浩編)、同年『三津五郎城めぐり』(三月書房)、平成24年『坂東三津五郎 粋な城めぐり』(角川SSC新書)、平成25年DVD『芸の真髄シリーズ 江戸ゆかりの家の芸 坂東三津五郎』(NHKエンタープライズ)など多数。

舞台写真

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