坂東 三津五郎 (8代目) バンドウ ミツゴロウ
- 本名
- 守田俊郎
- 俳名・舞踊名
- 俳名は是好、舞踊名も八代目坂東三津五郎
- 屋号
- 大和屋
- 定紋
- 三つ大、かつみ(角切角に梶ノ葉)
- 生没年月日
- 明治39(1906)年10月19日〜昭和50(1975)年01月16日
- 出身
- 東京
プロフィール
踊りの名人といわれ、歌舞伎の故実にも詳しい父・七代目三津五郎の薫陶を受けて育った。
少年時代は小山内薫の私塾で学び、青年時代には劇団「新劇場」を結成し『ボギー』などの翻訳劇を上演。昭和8年に番匠谷英一脚本の『源氏物語』上演を試みるが、初日直前に警視庁の命令で上演が中止となった。青年歌舞伎で活躍後、東宝に移籍し、『義経千本桜』のレビュー化を手掛けたり、日華事変に従軍して帰国後に戦況報告劇『上海』を上演するなど、進取の気性に富んだところを見せた。松竹に復帰後は、戦前から戦後にかけて関西に移り住み、武智鉄二の主宰・演出による実験的な歌舞伎公演、いわゆる「武智歌舞伎」に協力し、後進の指導に当たった。また、文楽三味線の野澤松之輔と組んで『猩々』『龍虎』の新作舞踊を作ったりしている。
その後東京に戻り、昭和37年歌舞伎座『喜撰』の喜撰法師などで、前年に没した父のあとを継いで八代目三津五郎を襲名した。また、舞踊の坂東流家元として、舞踊にも力を入れた。若い頃から老け役を演じたが、年輪を重ねて芸に滋味と風格が加わり、『野崎村』の久作、『賀の祝』の白太夫、『摂州合邦辻』の合邦、『三人吉三巴白浪』の伝吉、『女殺油地獄』の徳兵衛など、時代物・世話物ともに滋味のある老人役を見せた。また敵役でも優れた演技を見せ、『実盛物語』の瀬尾十郎や『俊寛』の瀬尾太郎、『助六』の意休などで舞台に厚みを加えた。
若い頃は理論が先走った感を持たれることもあったが、年を重ねるとともに豊富な知識と研究心は役々に活かされた。古文献から古美術まで幅広い知識を持ち、茶人としても一流で、故実に通じた博識から「歌舞伎の生き字引」と言われた。『戲場戲語』『歌舞伎 虚と実』『歌舞伎 花と実』や武智鉄二との対談『芸十夜』など、多数の著書を残した。話術も巧みで、ラジオ番組も持っていた。『食い放題』等の著書を持つ食通でもあり、一流料亭の料理長に教えるほどの腕自慢だったが、昭和51年1月京都南座に出演中、急逝したのが悔やまれる。
九代目三津五郎は娘婿。
【粟屋朋子】
経歴
芸歴
明治43年七代目坂東三津五郎の養子となる。大正2年1月市村座『奴凧』で三代目坂東八十助を名乗り初舞台。少年期は小山内薫の私塾で学ぶ。昭和3年6月明治座『鞍馬源氏』(岡鬼太郎作)の牛若丸で六代目坂東簑助を襲名。昭和7年新宿第一劇場を本拠とする青年歌舞伎の一員となり、一方、同年6月には四代目中村もしほ(のち十七代目勘三郎)、二代目中村又五郎、杉村春子らと「新劇場」結成。昭和10年6月青年歌舞伎を脱退、東宝劇団(第一次)に参加、昭和14年12月松竹に復帰。昭和15年5月関西歌舞伎に移籍し戦中戦後の関西歌舞伎の軸となる。昭和36年に東京に戻り、昭和37年9月歌舞伎座『喜撰』の喜撰法師、『御所五郎蔵』の星影土右衛門等で八代目三津五郎を襲名。昭和40年4月伝統歌舞伎保存会会員の第1次認定を受ける。
受賞
昭和23年6月、昭和24年1月、昭和24年4月大阪日々新聞創設第三賞文化牌受賞。昭和37年6月毎日芸術賞。昭和40年4月重要無形文化財保持者として認定書受領。昭和38年度十三会夜年間大賞。昭和39年11月紺綬褒章。昭和40年日本芸術院賞。昭和44年第17回エッセイストクラブ賞を『戯場戯語』により受賞。同年名古屋演劇ペンクラブ年間賞。昭和45年紫綬褒章。昭和46年第22回NHK放送文化賞。同年名古屋演劇ペンクラブ賞。昭和48年重要無形文化財保持者個人指定(人間国宝)に認定。
著書・参考資料
昭和12年『浄瑠璃所作事全覧』(坂東簑助・利倉幸一共編、建設社)、昭和38年『父三津五郎』(八代目坂東三津五郎述・小島二朔編、演劇出版社)、昭和40年『聞きかじり見かじり読みかじり』(坂東三津五郎著、三月書房、平成12年 新版発行)、『戯場戯語』(坂東三津五郎著、中央公論社)、昭和44年『芸のこころ』(坂東三津五郎・安藤鶴夫著、日本ソノ書房、昭和57年 ぺりかん社/平成23年 三月書房)、昭和45年『言わでもの事』(坂東三津五郎著、文化出版局)、昭和47年『芸十夜』(坂東三津五郎・武智鉄二著、駸々堂出版、平成22年 復刻版 雄山閣)、同年『東海道歌舞伎話』(坂東三津五郎著、日本交通公社)、同年『虚仮の戯言』(坂東三津五郎著、淡交社)、昭和48年『歌舞伎 虚と実』(坂東三津五郎著、玉川大学出版部)、昭和50年『食い放題』(坂東三津五郎著、日本経済新聞社、平成19年 『八代目坂東三津五郎の食い放題』と改題され光文社 光文社文庫)、昭和51年『歌舞伎 花と実』(坂東三津五郎著、玉川大学出版部)、平成25年『八代目坂東三津五郎-空前絶後の人』(ミネルヴァ日本評伝選)(田口章子著、ミネルヴァ書房)など多数。