名題と名題下
「名題(なだい)」とは
歌舞伎俳優の身分制度は時代によって変遷してきましたが、現在は「名題」と「名題下(なだいした)」に大別されています。
名題俳優(名題役者ともいう)になるには、まず、日本俳優協会の名題資格審査(名題試験)に合格して「名題適任証」を取得した上で、諸先輩やご贔屓、興行主など、関係方面の賛同を得て、名題昇進披露を行う必要があります。
名題看板と名題役者
「名題役者」という呼称は、江戸時代に、芝居小屋の正面に掲げられた名題看板(狂言の題名を記した看板)の上部に、主要な役者の芸名と紋を載せたところからきたといわれています。近世風俗史の基本文献『守貞謾稿』後集巻之二(雑劇 補)に、「また名代看板と云ひて、京坂一枚看板に似たる物あり。上に眼目とすべき狂言の図を画き、下に外題を墨書す。三都ともにこの看板に出るを役者の名誉規模とすることなり」とあります。(岩波文庫『近世風俗志』(五))
「名題下」とは
名題に昇進していない俳優を「名題下」といいます。
以前は、名題下俳優の中に、さらに相中(あいちゅう)、上分(かみぶん)、名題下の三階級があったといわれますが、現在はこの区別はありません。
名題下俳優の中には「名題適任証」を取得していながら、あえて名題に昇進しない人もいます。それは、名題と名題下の区別が単なる身分の上下ということでなく、専門とする仕事が違うという面もあるからです。
「名題下」の仕事
名題下俳優の重要な仕事に「立廻り」があります。立廻りは原則として名題下俳優の受けもちです。歌舞伎ファンなら、華やかな立廻りの場面で見事にトンボを返る名題下俳優の妙技に感心したことがおありでしょう。歌舞伎の立廻りはその巧緻な技術と、タテ(立廻りの手=演出)の華麗な美しさ、型の多様さなどで、ほかの芸能では見られない魅力をもっています。
タテをつける専門職を立師(たてし)といいます。戦後に活躍した名立師の坂東八重之助は、国から重要無形文化財保持者に選定され、国立劇場歌舞伎俳優養成の主任講師をつとめるようになってからも、名題下の身分にとどまり、大部屋に名札を掲げていました。そのほか馬の脚なども名題下俳優がつとめます。名題下の中には、幹部俳優さえ一目置く、腕におぼえのある名人がいることも珍しくありません。