家紋
家紋は歌舞伎特有のものではなく、平安~鎌倉時代の公家や武家に、また江戸時代以降は広く商家や一般庶民にも普及し今日に及んでいます。いまやどの家庭も家紋を所有し、祖先とのつながりを想起させる重要なアイテムとなっているのではないでしょうか。とりわけ歌舞伎においては役者の存在感を端的に表現し、また芝居と役者の人気を象徴し観客に憧れの念を抱かせるシンボルマークとなっています。
江戸時代の顔見世においては、1枚の板にそれぞれの役者の家紋と名前が書き込まれた「紋看板」が芝居小屋の正面に多数掲げられ、観客は期待を込めて開幕を待ちました。
現在の歌舞伎俳優も例外なく家紋を所有し、なかには観客によく知られた人気の紋も多数あるでしょう。また裃や紋付などに使われる定紋のほか、替紋も時に応じて使い分けられています。舞台衣裳にもしばしば応用され、『暫(しばらく)』の鎌倉権五郎の衣裳に團十郎家の定紋「三升(みます)」が大きく染め抜かれているのはその代表例。さらに鳶頭などの役に使用される「首抜き」の衣裳にはそれを着用している俳優の紋が大きく染められ、自分の紋のなかから首を出すという大胆な発想も生まれています。